医療コラム

乳がん 手術後に綺麗なバストになりたい-乳房再建術について-

乳がん手術後にバストを綺麗にしたい

乳がん 手術の後に、失った胸を綺麗にすることが出来る形成外科の再建術を今川 孝太郎 医師から詳しく解説をいただきました。

今川医師

<この先生が執筆しました>
今川 孝太郎 医師
経歴
1998年 東海大学医学部卒業
2013年 RDクリニック勤務
所属
日本形成外科学会 専門医・評議員
日本頭蓋顎顔面外科学会
日本マイクロサージャリー学会
日本レーザー医学会 専門医
日本褥瘡学会
日本熱傷学会

画像引用元:RDクリニック

乳がんによる乳房切除は、女性にとって身体的精神的苦痛をともなうものです。

胸元が開いた洋服などが着られない、合う下着がみつからない、友人や孫と温泉にいけないといった乳房の喪失感を感じて悩まれる方は少なくないと考えられます。

形成外科では失った乳房を再建し、このような苦痛を軽減し生活の質を上げるために再建術を行っています。

再建方法として主に腹部や背部の脂肪や一部筋肉を用いた皮弁手術による自家組織再建とシリコンブレストインプラントを用いた人工物による再建が、乳がん術後の再建として保険適用されています。

近年では自家脂肪注入による再建も一部の専門機関で行われており、実績と安全性も向上していますが、保険適用ではないため自費診療となります。

1次再建のメリットとデメリット

乳がん手術に対する再建術には、乳腺切除と同時に再建手術を行う1次再建と乳腺切除を含む乳がん治療が一通り落ち着いた後に再建する2次再建があります。

1次再建のメリット

1次再建のメリットとして、

  • 手術回数を少なくでき時間、費用を節約できる
  • 乳房の喪失感が少ない

1次再建のデメリット

デメリットとして、

  • 再建に対して考慮する時間が十分とれない
  • 万一局所再発した場合に再建組織も含めてすべての再切除が必要になる

2次再建のメリット

2次再建のメリットとしては、

  • 再建に対して考える時間が十分にある
  • 再発の有無を十分確認してから手術ができる

2次再建のデメリット

デメリットとして、

  • 手術の回数が増える
  • 術後瘢痕による癒着などで、1次再建よりも整容的に手術の難易度が高くなる

再建方法には、皮弁による自家組織、シリコンインプラント、脂肪注入があります。以下にそれぞれにについて説明します。

皮弁による自家組織再建

皮弁とは皮膚、脂肪、筋肉などの組織を、血流が維持された状態で移植する方法をいいます。

皮弁による自家組織再建では柔らかくて温かい、自然な乳房を再建することが可能です。

また、年月とともに対側と同様に下垂していくのも特徴の一つです。

欠点としては、組織採取部位に新たな傷ができること、採取した部位の違和感やちょっとした痛みの残存、筋肉を含めて組織を採取した場合の筋力低下、手術時間や入院期間が長くなることが挙げられます。

以下に代表的な皮弁について説明します。

腹直筋皮弁

腹直筋皮弁―乳がんを切除下腹部の皮膚、脂肪、腹直筋を利用する方法です。

下腹部は脂肪が多い部位なので、どのような乳房にも適用でき、最も利用されている皮弁です。

腹部の脂肪が減るので下腹部がすっきりする効果もあります。

デメリットとして、日常生活に支障はないですが、術後の腹筋力がやや低下すること、腹壁ヘルニアといって皮下の筋膜が緩むことによる、腹部の膨隆が合併症として生じることがあります。

また、妊娠、出産の可能性がある場合は原則適応外となります。

乳がん再建術の手術の流れー腹直筋皮弁

 

広背筋皮弁

背部の皮膚、脂肪、広背筋を利用する方法です。

腹部に比べて脂肪が少ないので、小さい乳房の方にすすめられます。

また、腹部に傷がある方や妊娠の可能性がある方にも適応できます。

デメリットとして肩から腕を後ろに引く動作の筋力低下、背部の陥凹した変形が残ることがあります。

乳がん手術の流れ

 

穿通枝皮弁

皮膚や脂肪の血液循環は元をたどると、大動脈から始まり、筋肉内を流れる血管に分岐し、さらに皮下脂肪内を走る解剖学的に名前は付けられていない穿通枝と呼ばれる分枝となり、最終的に皮膚の毛細血管となります。

穿通枝皮弁とは皮下脂肪内から筋間を走る穿通枝を利用した皮弁であり、筋肉の犠牲がないという利点があります。

主な採取部位として下腹部、臀部、大腿部が挙げられます。

この手術は皮弁を採取する際に高い技術が要求されること、皮弁の血管を一度体から離して、2mm程度の血管を再建する胸の近くの血管に顕微鏡下で吻合する技術が要求されることから、専門的にトレーニングを積んだ形成外科医がいる限られた施設でしか行われていません。

筋肉の犠牲が少なく、機能障害を最小限にして体の負担が軽くなることから今後主流になる方法と期待されますが、トレーニングを受けた形成外科医がたくさん増えることが条件になると考えられます。

乳がん手術の流れ

 

シリコンインプラントによる再建

シリコンインプラントによる再建は保険が適用されます。

シリコンインプラントの利点

利点として皮弁移植による自家組織再建に比べて手術時間、入院期間が短いこと、乳房以外の他の部位に傷ができないことが挙げられます。

シリコンインプラントの欠点

欠点として、インプラントは既製品で決まった形態のものしかないため再現性が劣ること、特に下垂した形態は再現できず、経年的な変化も起きないため左右のバランスが変わっていきます。

またやや硬く、冷たさを感じる場合もあります。

シリコンインプラント特有の合併症として破損、被膜拘縮、感染などがあり、このような合併症が認められた場合、症状によっては抜去する必要があります。

シリコンインプラントの手術方法

手術方法ですが、乳腺全摘後の胸の皮膚は非常に薄いので、そのままシリコンインプラントを挿入すると後日に皮膚の破綻が生じ、露出する可能性が高くなるため、原則としてインプラントは大胸筋の下に挿入する必要があります。

大胸筋と皮膚をしっかり密着させ、更に皮膚の進展性を保持する必要があるため、乳房切除時の手術ではティシューエキスパンダー(一時的な風船のようなもの)を挿入します。

術後数週後からエキスパンダー内に生理食塩水を注水し徐々に皮膚を拡張させていきます。

通常エキスパンダーは2〜3か月程度で拡張が完了し、その後3か月程度待機してからシリコンインプラントへ入れ替えをします。

つまりシリコンインプラントでの再建手術では2回の手術が必要になります。

乳房の断面図

脂肪注入による再建

腹部や大腿部から吸引した脂肪を乳房再建に応用する方法です。

脂肪注入による豊胸術に反対する声

1980年代に吸引した脂肪をそのまま適当に注入する方法が豊胸術として行われてきましたが、大部分の脂肪は生着せず吸収される結果でした。

壊死した脂肪は吸収されるだけなら良いのですが、嚢腫や石灰化を来すこともあり、この嚢腫や石灰化が乳がんの発見を妨げるとして1987年にアメリカ形成外科学会は、脂肪注入による豊胸術に反対する声明を出しています。

脂肪注入術が脚光を浴びる

しかしその後も脂肪注入術に関する改良は重ねられ、吸引した脂肪組織を遠心分離して、移植に不必要な成分を取り除いた脂肪細胞を利用することや、注入は細かく少量ずつ行うことで生着率が上がることなどが次々と報告されました。

2008年にアメリカ形成外科学会が脂肪注入術を乳房形成術に考慮しても良いという見解を出したことで脂肪注入術は再び脚光を浴びています。

脂肪移植術の成功の条件

脂肪移植術の成功には質の良い脂肪細胞を取り出し、適切に注入されることが必須条件になります。

脂肪細胞は物理的刺激に非常に弱いです。

したがって吸引時のカニューレも細くないものを使用し、吸引圧も過度にしないことが重要です。

不純物を取り除くために必要な遠心分離でも過度な圧がかかると破壊されてしまうため、遠心スピードも最適なものが研究報告されています。

また、なるべく外気に触れさせず、熱を加えないなど手術室環境にも配慮が必要とされます。

注入手技も重要で一度に大量の脂肪を一カ所に移植してしまうと生着不良を起こすため、皮下、筋膜、筋肉内と各層に万遍なく少量ずつ移植することが推奨されています。

脂肪注入術は成功する手術

このように脂肪注入術は、正しい知識を持った経験のある施設で行われて成功する手術といえます。

現在、乳房再建における脂肪注入術は、シリコンインプラント再建後の変形や陥凹に対する修正目的や、乳房温存術後の局所的な変形に対して行われることが多いです。

最近では乳房全摘後の全乳房再建の取り組みも報告されています。

この場合、脂肪移植は1回の注入量が100ml~200ml(体格にもよりますが) が限度なので、複数回の移植が必要になります。

大きな傷跡を作らずに自分の脂肪で柔らかい乳房が再現できることは非常に画期的なことであると考えられます。

今後、この方法はますます研究が進み、身近な手術方法として普及することが期待されます。

最後に

最後に乳癌診療ガイドラインでは早期乳癌に対する乳房切除時の1次再建は、形成外科専門医を含むチームとして行う場合に、根治性を損なわずに整容性が得られる有用な選択肢であるとされ、推奨グレードはB(行われることを推奨する)となっており、安全な手術と考えられています。

乳がん治療を行う乳腺外科医も、現在では早期乳癌の患者さんで手術を受けられる患者さんに対しては、再建手術について説明する必要があると考えている医師がほとんどであり、再建手術を受ける患者さんが増えているのが現状となっています。

また、進行がんの方でも抗がん剤治療、放射線治療を併用することでがんが制御された場合、完治後に再建手術を受けることは可能ですから、再建手術をあきらめる必要はないと考えられます。

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